施設管理権とは何か

施設内での写真撮影の規制

施設内での写真撮影を禁止する根拠として、「施設管理権」という用語が挙げられることがあります。「施設管理権に基づき撮影の可否を決めたり、退去を求めることも可能です。」とか1、「建造物などの施設の管理者は、施設内の秩序を守るために、特定の人物の入場を制限したり、特定の行動を禁止したりできる権限を有しています。一般的にこの権限を施設管理権と呼んでいます。」などと言われることがあるのです2。この「施設管理権」という用語は、複数の概念が混同して用いられていると思われますので、整理しておきたいと思います。

なお、「施設管理権」が写真撮影禁止の根拠として用いられることには、他の権利を根拠として写真撮影を一般的に禁止することができないからという前提があります。

所有権者は、物を使用、収益、処分する権限を有するとされます(民法206条)。しかし、所有権は、「物の有体物としての面に対する排他的支配権能であるにとどまり、その物の名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能に及ぶものではない」とされています3。写真撮影は、発光装置を用いない場合には、撮影対象に反射した光を取り込むだけで、撮影対象に物理的作用を及ぼすわけではありません。すなわち、写真撮影によって物の有体物としての面に対する排他的支配権能を侵害することはありません。そのため、写真撮影は、所有権に対する侵害にはなりません。所有権以外の物権が所有権を超える権能を有することはありませんので、所有権以外の物権に対する侵害にもなりえません。

刑法上も、窃取(刑法235条)の対象は、原則として不動産以外の有体物(刑法235条の2参照)及び電気(刑法245条)です。したがって、情報媒体はともかく、情報そのものは窃取の対象ではなく、利益窃盗として不可罰とされます(刑法236条2項参照)。

撮影対象が著作物であれば、写真撮影が著作権侵害となる場合はあります。しかし、写真撮影が著作権者の複製権の侵害といえるのは、撮影対象が著作物に当たり(著作権法21条)、当該著作物に関する著作権の保護期間が経過しておらず(著作権法51条2項)、かつ、複製に私的使用以外の目的がある場合に限られます(著作権法30条1項)。そのため、例えば、動物園で動物を撮影することは、撮影対象が著作物でないので、著作権侵害とはなりません。また、書店で本を写真撮影することは、本に関する著作権の保護期間が経過していなくとも、私的使用の目的であれば著作権侵害に当たらないことになります。ただし、映画館で上映されている映画については、「映画の盗撮の防止に関する法律」により、私的使用の目的の録画も禁止されています。

肖像権は、人の容貌に関する人格的利益ですので4、人以外の撮影対象については問題となりません。肖像等の顧客誘引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)についても、判例は、人格権に由来する権利としており5、物についてはパブリシティ権を否定しています6

その他、写真撮影が、プライバシー侵害や窃視(軽犯罪法1条23号)、性的姿態等撮影、児童ポルノの製造、営業秘密不正取得行為(不正競争防止法2条4項)などに当たるとして違法となる場合はありますが、いずれも、撮影対象や撮影場所が限定されています。

現行法上は、物を占有又は所有していることを根拠として、物に対する写真撮影を一般的に禁止する法律はありません。

法律における「施設管理権」

「施設管理権」という用語は、e-GOV法令検索で検索した限り、「農業用ため池の管理または保全に関する法律」及び同施行規則で、「特定農業用ため池の所有者のために当該特定農業用ため池の操作、維持、修繕その他の管理を行う権利」として使われているだけです(同法13条)。ため池以外の施設とは関係なさそうな概念です。

写真撮影に対する規制根拠として挙げられた施設管理権という概念は、法律に規定された概念ではなさそうです。

企業秩序定立権

法律学小辞典によると、「施設管理権」の語釈は、「企業秩序を維持するため使用者に認められた企業の物的施設に対する管理権」となっています7。この意味での「施設管理権」は、判例理論においては、労使関係において使用者がもつとされる企業秩序定立権の一部とされています8

もともと、「施設管理権」という概念は、「企業施設を利用しておこなわれる組合活動にたいし、攻撃や弾圧の武器として」、使用者が使っていた言葉であるようです9。判例は、これを、企業設備保全のための物権の一作用とは理解せず、企業秩序定立権の一部として位置付けました。すなわち、「施設管理権」とは、使用者が、企業秩序維持のために、規則を制定したり、命令したりする権限及び規則や命令の違反者を懲戒する権限のことです10

企業秩序定立権としての「施設管理権」には、所有権などの物権とは異なる二つの特徴があります。一つは、物権が契約関係にない第三者にも主張できるのに対し、企業秩序定立権は使用者と被用者との間でしか認められないことです。

もう一つは、使用者の企業設備に対する占有を侵害しない態様の行為であっても、制裁の対象とできるということです。不動産の所有権者は、当該不動産への立ち入りまたは滞在を許すか否かを決めることができますし、立ち入った人が所有権者による不動産の使用収益を妨害することは禁止されています。しかし、所有権者は、規則を制定して、不動産に立ち入った人を規則に従わせることができるわけではありません。所有権が不動産に所在する人に対する支配権でないことからすると当然です。これに対して、使用者は、企業秩序維持のために必要であれば、企業設備内での写真撮影を懲戒事由とする規則を定めることができます。

企業秩序定立権としての「施設管理権」は、施設を管理する使用者が、従業員に対して、施設内での写真撮影を禁止する根拠にはなりそうです。しかし、施設の管理者が、その従業員ではない来訪者に対して、写真撮影を禁止する根拠とはならないでしょう。

不退去罪の保護法益

写真撮影禁止の根拠を「施設管理権」とする言説は、施設に滞在する者が写真撮影を止めない場合には、管理者が滞在者に施設からの退去を求めることを想定しています。施設の管理者が退去を求めた場合、退去に必要な時間を超えて退去しなければ不退去罪が成立します(刑法130条)。そうすると、「施設管理権」とは、不退去罪の保護法益を指すのでしょうか。

しかし、不退去罪の保護法益とされる管理権は、建造物等に誰を立ち入らせ、誰の滞留を許すかを決める自由です。建造物等の管理権に、特定の行動を禁止する権限は含まれていません。例えば、私が、自らの住居において、来訪者に対して、「話し方が気に食わないから」という理由で退去を求めたとしても、来訪者が退去しなければ不退去罪が成立するでしょう。この場合でも、私の自宅において、来訪者が気に食わない話し方をすることが禁止される(違法となる)わけではありません。同様に、写真撮影をしたからという理由で退去を求めることができるとしても、写真を撮影する行為が禁止されている、または、写真撮影を違法と評価できるというわけではありません。合意なく、一定の領域内での任意の行動を禁止することができる権限は、立法権や条例制定権以外にないのではないかと思われます。

管理権に特定の行動を禁止する権限が含まれていないというのは、退去を求められれば施設内での写真撮影ができなくなるのであるから、言い方の問題に過ぎないと思われるかもしれません。しかし、この点は、正当防衛の成否にも影響するような実質的問題です。退去の要求を受けても建造物等から退去しない者を屋外の道路まで引き出す行為は、暴行罪の構成要件に当たるとしても、正当防衛になりえます11。これに対して、施設内での写真撮影を理由に退去を要求したにも関わらず、退去せずに写真撮影を続ける者に対して、屋外に引き出すのではなく、撮影行為を制止した場合、正当防衛の成立を認めることは難しくなるでしょう。制止行為が、不退去罪の保護法益である管理権に対する侵害を排除する効果をもたらすとはいえないからです。撮影行為の制止について正当防衛を認めるには、撮影行為により侵害される管理権以外の法益を想定する必要があります。

以上のことからすると、不退去罪の保護法益である管理権から、施設内において写真撮影を禁止する権限を導き出すことはできないといえます。

概念の混同による弊害

写真撮影禁止の根拠として「施設管理権」が挙げられるとき、企業秩序定立権として「施設管理権」と、不退去罪の保護法益としての「管理権」の二つの概念が混同されているのではないかと思われます。すなわち、一方では、管理者には、「施設管理権」があるので、施設内での秩序維持のために写真撮影を禁止する規則を制定する権限があるといい、他方では、管理者には、「施設管理権」があるので、規則違反者を退去させることができる(退去しなかった場合には不退去罪が成立する)といい、これら二つの「施設管理権」が別の概念であることが区別されずに語られています。

このような概念の混同は、あたかも、施設に立ち入っただけで個別に同意していなくとも、従業員でもない施設の来訪者が、施設の管理者が定めた規則に従う義務を負うという誤解を生みだしかねないものです。確かに、物権法定主義(民法175条)や法律による行政の原理などの法の基本原則を知っていれば、「施設管理権」なる法律に定めのない概念から、施設内に限るとはいえ、一般市民社会の秩序とは異なる秩序を来訪者に押し付けるような強大な権限が導出できるといった勘違いをすることはないでしょう。そのため、このような誤解を恐れるのは杞憂だと思われるかもしれません。しかし、私は、ある検察官から、検察庁内での(検察官開示証拠の)写真撮影を禁止する根拠は、「庁舎管理権」であると言われたことがあります。

「庁舎管理権」は、官公庁の庁舎に関して、民間企業における「施設管理権」に相当するとされているものですが、「施設管理権」と異なり、公物管理権に根拠を有するとされるものです12。しかし、仮に、庁舎管理規則に、庁舎内での撮影を禁止する条項があったとしても、法律の根拠がなければ、公務員でない来訪者に個別の同意なく義務を課すことはできないというべきでしょう(法律の留保)。なお、「庁舎管理権」は、「官公署の執務に支障が生じた場合には、官公署の庁舎の外に退去するように求める権能、およびこれに応じないときには、官公署の職員に命じて、これを庁舎外に押し出す程度の排除行為をし、官公署の執務の本来の姿を維持する権能をも当然に包含している」とされます13。ただし、このことは、法律の留保の例外としてではなく、庁舎の管理者にも不退去罪の保護法益としての管理権が認められていることから説明ができると思われます。

検察官が、検察庁内での写真撮影が禁止される根拠として「庁舎管理権」を持ち出したことには、企業秩序定立権と不退去罪の保護法益を混同することと同じ誤りがあると思われます。すなわち、「施設の管理者が定めた規則に違反したことを動機として、管理者が施設に立ち入った者に対して施設から退去することを求めることができる」という命題から、「ある者が施設に立ち入ったならば、その者には施設の管理者が定めた規則に従う法的義務がある」という命題を導出するという誤謬です。不動産所有権に規則制定権など含まれていないということや、法律に基づかずに一方的に義務を課されることは原則としてないということは、法律家であっても忘れることがあるのです。

したがって、企業秩序定立権としての施設管理権と不退去罪の保護法益としての管理権との区別に注意を払うことは有益であると思われます。

  1. 京野哲也編著 ronnor・福田英訓・頓宮尚公・中川佳男・花房裕志・黒田修平著『Q&A 若手弁護士からの相談203問 企業法務・自治体・民事編』(日本加除出版、2022年)、84頁 ↩︎
  2. 梅田康宏・中川達也『第2版 よくわかるテレビ番組制作の法律相談』(日本加除出版、2016年)190頁 ↩︎
  3. 最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁 ↩︎
  4. 最判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁 ↩︎
  5. 最判平成24年2月2日民集66巻2号89頁 ↩︎
  6. 最判平成16年2月13日民集58巻2号311頁 ↩︎
  7. 髙橋和之ほか編『法律学小辞典 第6版』(有斐閣、2025年) ↩︎
  8. 最判昭和54年10月30日民集33巻6号647頁 ↩︎
  9. 門田信夫「施設管理権と組合活動–施設利用をめぐる民事上の問題」東洋法学11巻2-3号31~62頁(東洋大学法学会、1967年)、33頁 ↩︎
  10. 菅谷和夫・山川隆一『労働法〔第13版〕』(弘文堂、2024年)、643~44頁 ↩︎
  11. 大阪高判昭和29年4月20日高刑集7巻3号422頁 ↩︎
  12. 遠藤きみ「庁舎管理権」判例タイムズ369号99頁以下(1978年)、99頁 ↩︎
  13. 東京高判昭和51年2月24日高等裁判所刑事判例集29巻1号27頁 ↩︎

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